自分の限界を悟ったときの話
私は、昔のことを思い出すのが苦手だ。昔の私には、欠点が多過ぎるからだ。現在、昔の私を知っていながら交流を続けてくれている知人たちには、とても感謝している。
私の欠点。それは、人間が理解できないことに全ての原因があったのだと今では理解している。自分も人間なのに、同じ人間が理解できないというのはオカシな話なのだけれど、そういうことなのだと思っている。一般的な人間がどういうときに喜び、悲しみ、怒り、楽しむのかを私は共有することが出来ない。そのせいで、多くの知人を失い、知人になる可能性を潰してきたと思っている。
自分は普通ではない。そのことは、長い間私を苦しめてきた。そこから逃れるために努力してきた。だがそれは、意味のあることだったのだろうか？ 結局、私は普通の人間と同じようにはなれなかったし、現在ではセミリタイアという、かなり普通ではない生き方を模索して努力している。私の３０年間は、「私は普通ではない」という解を得るために費やされてきたのだ。
私は普通ではない。労働から逃れたい。恋人はできない。社会貢献の術はない。カネはない。人脈もない。特技もない。人々が明日のことを考えている間に、私は全く別の時代のことを考えている。
人間は何をしたい？人間は何のために生きている？普通の人間が20年間で理解できるこれらのことを、私は成人式を過ぎても理解することが出来なかった。そして、30歳を過ぎた今でも理解できないままだ。いつになったら理解できる？いつになったら普通になれる？
ある日、私はそういう思考を放棄した。考えても分からないなら、意味がない。だったら、「普通ではない自分」が生きる術を考えるべきだ。できないことを、いつまでも考えていても仕方がない。既にやれることはやり尽くした。それでも解決できないなら、方法を変えるべきだ。
今でも、昔のことを思い出すと、恥ずかしさや後悔で頭が痛い。けれど、それを踏みにじって私は未来のことを考えねばならない。普通の人間は過去の自分を土台にして、そこから更に高みを目指すのだろう。しかし、私は過去を踏み潰す。グシャグシャのメッタメタに踏み潰す。残ったものは、ほんの僅かな、手のひらに収まるぐらいの「現在」だけだ。だけど、逆に私にとっては都合が良い。手のひらに収まる程度の大きさなら、何とか守りながら先に進むことが出来る。
手のひらに収まるぐらいの「現在」。それが私の限界だと悟ったとき、生きるのが多少は楽になった。
