セミリタイアするまで非正規

正社員になれないことが分かった三十代。労働者のままでは死にかねないので、非正規のままセミリタイアを目指している、色んな意味で駄目なヤツ。

『差別の日本史』を読んだ 「土地神話」の強さと、性差別問題の難しさ

 日本で生じていた(生じている)差別の歴史についての本。

 日本史でも習った奴婢や穢多・非人のことから、女性差別LGBTまで浅く広く扱っている。文章に(おじさんならではの)クセが少々あるけど、読みやすいと思う。

 

 現在の非正規労働と、かつて日本の奴隷だったとされている人々(奴婢などの被差別階級)について調べるために読んでみたけど、この本によれば、日本の被差別階級と現在の労働問題はそこまで関係ないみたい。戦後史以降でみれば、同和利権のきな臭さだったり、労働運動で貧しい労働者のシンボルとして利用されることで、被差別階級の問題が矮小化されてしまうことに作者は疑問を持っているようだった

 

 といっても、労働と無関係なわけではない。

 例えば律令制における五色の賤で、賤民の一つである陵戸(りょうこ)とは墓守のことだった。昔の日本人は死を穢れとして嫌っていたから、墓守も普通の人(=良民)とするわけにはいかない、ってことなんだろう。ただ、給料は普通に貰ってたし税の免除もあったから、貧しくはなかったようだ。

 

 本書では、昔の日本の差別意識はカネよりも土地から来ていた、とされている。

 例えば、隼人や蝦夷など、日本政府に侵略された原住民。土地を奪われたうえにおとぎ話でも怪物扱いなのだから、差別と言えば差別である。

 また、土地を持たない水呑み百姓は、土地を持つ金持ちに雇われて、雇い主の土地を耕して、何とか日銭を稼いでいたとされている。これは、現在の非正規労働者とほぼ同じ生き方だ。

 徳川幕府では「解放令」で穢多・非人という身分が廃止された。しかし、あくまで建前上の事だったので、被差別階級の人々が住んでいた地域は、そのまま残ることになる。もちろん、「農民」が住む地域とは区別された。

 そう考えると、フツーの日本人の人生目標に(新築の)マイホーム購入がしぶとく掲げられ続け、マイホームが購入できない労働者はデフレ下でも全く値下がりしなかった貸家の賃料を払い続けて下層階級から抜け出せない、という現象は、日本に昔から根付く土地=富の価値観から生じているとも考えられる。

 かつては身分制によって住む土地がハッキリと区別されていたが、現在では持家or賃貸という住居の種類によって区別されるようになった。それに加えて、港区は金持ちが多い、みたいに特別な土地というものがある。日本人は身分制度による土地の縛りから解放された代わりに、カネによって土地に縛り付けられるようになった、ということだろうか。

 

 

 

 最後に、女性差別(というか、フェミニズム運動)について本書からの引用。

 

 少子化が進行していますし、それまで農村から吸い寄せていた若年労働者が枯渇しています。人手不足をおぎなうのは、女子の労働力でした。なにも女性の自立を本気で考えた経営者はひとりもいないでしょう。その経営市場の要求と、フェミニズムのひろがりとが一致しました。消費の場としての家庭の仕事が、このときいっそう劣位に置かれたのです。労働する女性の美化は、かつての戦時中の女子挺身隊への揚言と似ています。フェミニズム運動は、結果、女たちを男性原理に包摂する手助けをしました。(p128)

 

 あと、togetter のまとめも。

togetter.com

 togetter では「ピンクが好きでプリキュアが好きでスカートが好きみたいな女の子が生きづらくなった説…」について「そんなことないだろ」という反論もたくさん来てるけど、「ピンクが好きで(略)」を呟いた人が言いたいのって、そういうことじゃないと思うんだよね。

 プリキュアは「女の子だって暴れたい!」から生まれた作品だけど、プリキュアのデザイナーさんは作品ごとに、女の子ウケする色んな可愛さを追求してるから、どんなにボコスカ殴ってもプリキュアは可愛い女の子なんだよね。そんなプリキュアが20年近く続く長寿番組になってるんだから、プリキュアが好きな女の子が生きづらい世の中になっている、とは確かに思わない。

 一方で、フェミニズムも本来は「女性が女性として生きる権利や歴史を創っていこう」という運動だったハズ。それが、いつの間にか女性が女性として生きてきた権利や歴史を否定して、男性と同じ(時には男性より強い)利益を獲得するのが目的になっている、ような気がするんだよね。(あくまで個人的な感想、だけどね。個人的な感想、ですよ!)で、それを(男性が運営する)マーケットに利用されて消費だけされて、肝心の女性の権利は(違う形で)抑圧されたままという… これがプリキュアと決定的に違う点だ。

 先ほど引用した『差別の日本史』の内容にも通じるものがあるし、「ピンクが好きで(略)」を呟いた人が指摘したいのもこれだったんじゃないのかな? 

 

 それにしても、差別問題は難しい。

 歴史をしっかり勉強したうえで、柔軟な視点を持たなければ、自分自身が差別者になってしまう危険性がある。まさに、ミイラ取りがミイラになる。

 『差別の日本史』では、他にも色んなフツーじゃない生き方をしていた人々の歴史や、LGBTユダヤ人などにも触れている。内容は重いけど入門書感覚で読めるので、気になった人はぜひ。

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